無題
「なんだと…ッ ! ?」
やっちはそう言ったきり動かなくなってしまった。それは勝算云々の問題ではないことを悟っているという心情を不気味に暗示していた。
近接格闘なら自信があった。もし敵がインファイターならしめたもの。アウトタイプだったとしてもこの界隈では向かうところ敵無し。
そう。敗北要素は一切なかった。
―…つい数分前までは。
「…貴様のような雑魚にかける時間が惜しい。一刻も早く消えてもらうぞ… ! 」
すっかり萎縮しきったやっちを追い詰めるかのように威圧的な言葉を投げかける怪物・S-WORD。
「ファック ! 俺を消すたァ随分じゃねぇか ! やれるもんならやってみろ !」
最早やっちはそう言い返すのが精一杯だった。額には汗が伝い、明らかに敗色は濃いことを感じさせる。
「そうか…。せめてもの慈悲だ。抵抗は無意味とわかったならすぐにやめろ…その時は楽に殺してやる。」
「…ッ !」
S-WORDが徐々に間合いを詰め始めた。咄嗟にやっちは後退しかかった。しかし次の瞬間、意を決したかのように間合いを詰め始めた。
その表情には先程のような不安は一切なかった。
「ほう… ? 死を覚悟したか…」
「どうかな ? 気になるなら確かめてみろよ」
そう言い終わった刹那、一陣の風のように鋭い音を立て、2人は常人の目で追う事の出来ない領域まで加速した。
「見たところの速力は互角のようだが…どう見る ?」
闘技場の脇の門にいたベルゼブルはバティに問い掛けた。バティは刀を研ぐ手を止め答えた。
「どちらにしろ、勝者が俺と当たって死ぬということには変わりは無いよ。」
随分な自信だな、というベルゼブルのからかいを無視するかりように、再び刀を静かに研ぎ始めた。
その時、観客席からドッと声が上がった。S-WORDのブローがやっちの鳩尾を完璧に捉えたのだ。
「がッッ… ! !」
声にならない声をあげ、軽々とフィールドの隅まで吹き飛ばされたやっち。
「…どうした ? 仮にもDクラスの帝王がこの程度ではあるまい ? 」
あからさまに嘲笑してみせるS-WORD。
「…恐らくこの試合は一方的な殺戮になるだろうな。S-WORDの動きは明らかにCクラスの実力がある。」
「まだわからんぞ。双方とも実力の30%も出していないだろう。まだ小手調べだ。」
すいませんもうしません。